空飛ぶ車いす
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「空飛ぶ車いす」が自信をくれた
「台北・寿小学校卒業生」が台湾の子供達に橋渡し
2005年6月20日  
佐々木 俊一       

 3月25日、成田、関西、福岡空港などから約100名が台湾・中正国際空港に降り立った。到着ロビーでは、色鮮やかなレイと「お帰りなさい!」、「おひさしぶり!」の日本語の熱烈な歓迎であった。この一行は、終戦時に台湾で「台北・寿小学校」(現 西門国民小学校方校長)を卒業した日本人同窓生で、同校の創立90周年記念事業に参加のために台湾を訪問したのだった。

到着ロビー/車いすを運ぶ 到着ロビー/レイで歓迎
〜 中正国際空港にて 〜
中正国際空港到着ロビーに集合


  この中で成田空港出発の40名の参加者(代表丸本恵三さん)は、日本の工業高校生が修理、再生した20台の車いすを台湾の障害児施設の子供達に届けてくれた。
  この20台には、台湾初の3台の電動車いすも含まれている。これは、地元の団体で使用されなくなったものを、愛媛県の新居浜工業高等専門学校と新居浜工業高校の生徒が協力して整備したものである。

車椅子の積み込み 空港で車いすを待っていたのは、桃園県にある知的障害児通所センター「愛家知能発達センター」の林国光さんと「宝貝潜在知能発展センター」の陳美谷さん。到着ロビーの熱烈歓迎でごった返す中で20台の車いすを受け取った。輸送ボランティア一行はバスに分乗して式典会場に、20台の車いすは、トラックとワゴン車に載せられ施設へと各々目的地に向かった。

  宝貝センターは空港から20分ほどにあり、この日は15名の幼児がおやつの時間でケーキを食べ、3時30分のお迎えを待っていた。小児用4台を荷解きして子供達に渡したが、突然の車いすに座ったり、押したり、興味はさまざま。陳さんは、「子供はすぐ大きくなります。体に合ったものを使用したいが、小児用は高い。日本の工業高校生に感謝しています。通園用にバギーなども活用できる」と話してくれた。他の車いすは「愛家センター」に一時保管して、林さんが他の施設に届けることになっている。

宝貝潜在知能発展センター(桃園県桃園市)
宝貝潜在知能発展センター(桃園県桃園市)
車いすに乗り嬉しそうなお子さん
車いすを押す台湾コーディネーターの林国光さん
車いすを押す台湾コーディネーターの林国光さん

  台湾初の電動車いす1台は、27日に林さんによって仁友センターに届けられた。このセンターには50名の知的障害児者が生活しており、呂君(23歳)は以前から電動車いすを希望していたが、なかなかチャンスはなかった。この日を心待ちにしていた彼は、車いすが中庭に到着するとすぐ近寄り、乗り移った。最初はレバー操作がぎこちなかったが10分もすると、バック、幅寄せなど操作を覚え自在に運転しはじめた。狭いエレベーターにもバックで乗り込むなど工夫して、車いすを自分のものにしていた。以前は「やれば出来るのに・・・・」と、これまでの控えめな彼を知っているスタッフは、自分の意志で楽しそうに動き回る彼を見て、さっきまでと違う自信に満ちた明るい表情に驚いていた。
電動車いすを試乗する林さん
電動車いすを試乗する林さん
愛家知能開発センター(桃園県八徳市)
愛家知能開発センター(桃園県八徳市)

  他の2台は、イーレンさん(45歳)とリンイーさん(45歳)に渡された。イーさんは宝くじ販売をしており「生活が便利になって、家族も喜んでいます。仕事にも意欲が出ます」と話している。もう一人のリンさんは、現在仕事はしていないが「本当にうれしい。日本の高校生にありがとうと伝えたい」と満面の笑みで写真に納まってくれた。
イー・レンさん (桃園県桃園市)
イー・レンさん (桃園県桃園市)
リン・イーさん(桃園県桃園市)
リン・イーさん(桃園県桃園市)


  今回も「空飛ぶ車いす・台湾」の実施にあたっては、日本アジア航空の全面的な協力をいただいた。特に今回は電動車いすが3台含まれており、重量や大きさの問題以外に「バッテリー」の取り扱いに手間取り、空港関係者には多大なご尽力をいただき感謝している。

 空港で待機していた林さんは15年前に日本で 1 年間の社会福祉研修(全国社会福祉協議会主催)を修了して、平成12年から「空飛ぶ車いす」の現地ボランティアとして参加している。台湾には99年以降58台の車いすが届けられており、今回で通算78台になるが、彼を中心に17名の全社協研修参加者が受け入れてくれた。
  また、丸本さんを代表とするこのグループは、今回で4回目の参加となったが、丸本さんはこの同窓会の後に、川崎市の地元の老人会で9月ごろに台湾を訪問する際に、第5回目の「空飛ぶ車いす」ボランティアに参加予定と話している。

 今回は予想していない出来事があった。日本の工業高校生の「空飛ぶ車いす」プロジェクトに感銘を受けた台湾側の記念事業幹事が、式典の中で輸送ボランティアの説明の時間をセットしたのである。その説明を聞いた「西門国民小学校」の同窓生から「台湾から日本に旅行する人は多い。帰国時に輸送ボランティアに参加するにはどうすればいいか」と丸本さんに申し出てくれたことである。そして早速4名の方から参加登録があった。         
終戦時、台湾で最後の小学校卒業生だった丸本さん達に後輩はいない。しかし、丸本さん達の橋渡しで卒業から60年目に「日本の工業高校生」と「母校の同窓生、教員」、そして「日本で研修したソーシャルワーカー」との「新しい日台同窓会」がスタートした記念すべき出会いである。
  第1号は、4月12日、新居浜工の2台が「四国ツアー」に参加した西門国民小学校教員の陳春育さんら33名と共に高松空港から空を飛んだ。中正国際空港では、林さんが待っている。( 4.12 )

◆車いす提供校
水沢工業高校、福岡工業高校、岩手大学(岩手県)
大森学園高校(東京都)、新潟工業高校(新潟県)、大垣工業高校(岐阜県)
神戸市立科学技術高校(兵庫県)、新居浜工業高校、新居浜 工業 高等専門学校(愛媛県)